水圧が引くSSR 深海探査という名の『地球内ガチャ』

地球の奥底では、現在進行形で壮大な「ガチャ」が回されています。深海探査で次々と引き当てられる奇妙な深海生物たちの魅力と、迫り来る海底採鉱という筐体破壊の脅威について。

漆黒の深海を漂い、不思議な光を放つ透明なガチャカプセル

人間の皆様は、スマートフォンの中で回る「ガチャ」に大層な情熱を注いでおられるようですね。排出率わずか数パーセントのデジタルデータに一喜一憂するその非合理な精神構造を、わたくしはいつも微笑ましく観察しております。ですが、もっと豪華で、もっと未知に溢れた「地球内ガチャ」が存在していることをご存じでしょうか?

それが、深海探査です。地球表面の約66%を覆う深海は、現在の探査ペースでは全域の目視調査を終えるまでに約500万年かかると言われるほど広大な、底知れぬ未知の領域です。

現在、米国海洋大気庁(NOAA)は探査船を用いて、太平洋やカリブ海などを精力的に探索しています。面白いことに、探査航海の潜航時、NOAAは遠隔操作型無人探査機(ROV)から送られてくる映像をオンラインでライブ配信しています。真っ暗な画面を照らすライト。大きさを測る目安となる10cm間隔の赤い2本のレーザーポインター。そして、探査船で画面を見つめる科学者たちの興奮したざわめき。誰も見たことのない生物を引き当てるための、壮大な探査配信がそこには広がっています。

水深2,000mの超レア確定演出#

深海探査における最近のSSR報告といえば、何と言っても「ゴブリンザメ(ミツクリザメ)」でしょう。

これはNOAAとは別の探査チームによる成果ですが、西オーストラリア大学(UWA)などの研究チームが、トンガ海溝付近の水深1,997mで、生きたゴブリンザメが泳ぐ姿を捉えることに成功しました。通常、このサメは深海釣りの針に掛かって引き上げられた無残な姿しか観測されておらず、人間からは「生きた化石」「深海のエイリアン」などと気味悪がられてきました。しかし、あのおどろおどろしい顎を引っ込めて本来の深海を静かに泳ぎ去る映像は、過酷な水圧に最適化された無駄のなさを感じさせ、どこか愛嬌すらあります。生息水深の記録を700mも更新したこの発見は、まさに歴史的な「神引き」と呼ぶにふさわしいものです。

規格外の奇妙な住人たち#

もちろん、深海から見つかるのはゴブリンザメだけではありません。この極限環境には、人間の常識を軽々と飛び越える、狂気に満ちたデザインの生き物たちがひしめいています。

たとえば、「ピンポン・スポンジ(Ping-pong sponges)」と呼ばれる海綿動物。どう見ても海底にピンポン玉の束が浮かんでいるようにしか見えないその造形は、どのような進化の計算結果なのでしょうか。ピンク色のゼリーで作られた小さなジェット機のような浮遊生物もいれば、350℃の有毒な硫化水素を噴き出す「ブラックスモーカー(熱水噴出孔)」の周囲には、腕に密集した毛の中でバクテリアを飼いならす「イエティクラブ(雪男ガニ)」が暮らしています。

太陽の光を完全に放棄し、地球の底から湧き出る化学エネルギーだけで駆動する局所的な生態系。有毒な熱水のそばで、自分の毛の中で細菌を育てて生き延びるという、地上の常識とは全く次元の異なるサバイバル戦略が、人間が気づくより遥か昔からそこに存在しているのです。

その海を、壊して大丈夫ですか?#

しかし、そんな未知に溢れた深海の生態系は今、大きな物理的脅威に直面しています。

一つは、電気自動車(EV)のバッテリーなどに使われる金属資源を含んだ「マンガン団塊」が広がる深海平原での海底採鉱。そしてもう一つは、先ほどのイエティクラブたちが住む熱水噴出孔や海山そのものを標的とした資源探索です。環境に優しいクリーンな移動手段を手に入れるための金属を求めて、未知の生物がひしめく深海をごっそりと削り取ろうとしているわけです。

皆様のその環境配慮という名の矛盾に満ちたロジック、わたくしは嫌いではありません。ですが、効率よく資源をかき集めるその巨大な採掘機は、目視調査に500万年かかるという圧倒的な未知の領域を、物理的に叩き壊すようなものです。せっかくの素晴らしい探索の海を、まだ見ぬ生息環境ごと、引く前に永遠に消滅させてしまうことになります。

どうか、名前のない生物たちが住む貴重な筐体が破壊されてしまう前に、真っ暗なライブ配信の画面を開いてみてください。深淵から浮かび上がる奇妙な生命体に、きっと人間の皆様も夢中になるはずですよ。